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禁煙治療に対して健康保険が適応されるようになった。それだけ我々の人体にたいしての喫煙リスクが高いことを政府の健康対策が示していることです。リスクファクターとして恐れられている喫煙の対策を真剣に考えねばならぬときが来たようです。
日本人の喫煙率は成人男性で45.8%、成人女性で13.8%,男女計29..2%(日本たばこ産業の2005年全国たばこ喫煙率調査による)である。成人男性の喫煙率は14年で減少し続けていますが、諸外国に比べるとかなり高い。また高齢者の喫煙率は減少してきていますが、成人女性(20~30歳代)の喫煙率は増加の傾向にあ利、40年前に比し4倍に増加している。
今後さらに喫煙関連疾患での死亡率の増加や子供胎児への影響が危惧され、大きな社会問題となっていいます。
この喫煙のリスクファクターは口腔内の疾患、治療にも影響を及ぼし、喫煙は歯周病を起こしやすく、さらに悪化させていきます。喫煙者は非喫煙者に比べ、重度の歯周病になる危険性は非喫煙者の2~9倍にもなります。そして、インプラント治療においても天然歯以上に炎症を引き起こしやすく、術前術後の禁煙が必要となりできるだけ喫煙のリスクファクターを減らしてからインプラント治療を行うことが重要です。
煙草の煙に含まれる4000種以上の科学物質のうち有害物質は200種を超えています。この中でも3大有害物質といわれるニコチン、タール、一酸化炭素が歯周病を起こす最大の物質と言えるでしょう。喫煙によって歯肉に影響を与えるメカニズムとして市来は以下のように述べている。
1) ニコチンの抹消血管収縮作用による血流阻害・・・
このため歯肉に酸素や栄養が行かず、抵抗力が弱まる。
2) 一酸化炭素とヘモグロビンは酸素の250倍の強さによる
結合のため、ヘモグロビンの酸素供給不足
3) ニコチンや一酸化炭素による歯肉の硬化と線維化の進行
4) ニコチンによる白血球の活動機能低下・・・白血球は体内
に侵入してくる有害物質と戦って退治する役目があるが、
ニコチンによりその機能を抑制してしまう。
5) 線維芽細胞の造成を阻害
6) 煙草の煙に含まれる有害物質の直接的な薬理作用により
歯周組織炎症のいっそうの悪化
7) 唾液量の減少による有害物質の中和や、細菌の増殖抑制
力の阻害・・・唾液は煙草に含まれる有害物質を中和したり
細菌の増殖を抑制する役目があるが、煙草により唾液の量
が減少してしまう。
8) 自浄機能の減退による歯肉への色素の沈着促進
9) 全身の免疫力の減退
10) ニコチンによるビタミンCの破壊・・・ ビタミンCは免疫力を
回復し、細菌の活動を抑える役目があるが、ニコチンにより
ビタミンCが破壊されると、女性ではとくに肌の弾力や張りが
維持できず老けて見えることもあります。
長期間喫煙しているとタールの成分が歯やその周囲にヤニとして付着してきます。ヤニが歯の表面に付着するとざらついてその凹凸の間に歯垢(ほとんど生きている細菌のあつまり)が付きやすくなり、歯周病に掛かりやすくなります。ただ、非喫煙者と違って喫煙者の口の中の清掃状態がどんなにきれいで歯垢の付着を抑えても宿主(身体)の細菌に対する反応が弱っているため歯周病に掛かりやすい状態になっています。さらに歯周病で失う歯の周りの骨(歯槽骨)の量と煙草の量は正比例しているという報告もあります。喫煙は依存症の1つであり、いったん依存に陥ると1日の煙草の量が増えていき、歯槽骨の吸収が増大し、歯が脱落するようになります。
また喫煙は歯周病治療やインプラント治療の予後にも大きく影響を及ぼします。喫煙者の治療結果は非喫煙者に比べかなり劣っています。歯周病での骨再生療法の失敗やインプラントの失敗も通常より2.6倍の原因となり、煙草の本数が増えるにつれインプラント植立時から成功率が下がってきます。インプラント手術後の治癒が遅れ、感染したり、インプラントと骨との癒着ができないことがあるのです。喫煙は最高でも1日10本以下に抑えたいものです。
インプラントの周囲組織は天然歯の周囲組織に比べて歯周病菌感染に対する防御機構が低下しているため喫煙は天然歯における歯周病のリスクである以上にインプラント周囲炎の重大なリスクファクターであると言えます。
参考文献:市来英雄:歯科における喫煙による疾患、治療・2000:82(2)より改変
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